2012年12月01日

Flexiosoursの涙 #1 「フレックス・ライティング」

今回、万年筆の雑誌として購読者の多い「趣味の文具箱」という本に私の事が掲載されて、早速お問い合わせを頂いている。ペンや字体についてもっと知りたいという人から、ジャズ・トランペット・プレイヤーが何で文房具の雑誌に??その意外な組み合わせに興味を持ってくれた方もいる。そこで、今回の掲載ページにはスペースの関係で書けなかった事や僕の愛用のペンの事などもご紹介してゆくことにした。時間のある時に書いてゆくので気長におつきあい頂ければと思います。ーHiro
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"Flex Writing"のこと

僕はいつも自分のジャズ・ライブの前に10分間だけコーヒーショップに寄り、その日に特に演りたいと思う曲を数曲メモに書く。とりあえず思いついた数曲分のタイトルを書くだけなのだが、実はこれがその日のライブのカラーに関わる大切な"儀式"となる。
ただ書くのではなくその曲をイメージして自分流の書体で描く。使うペンもいわゆるボールペンやサインペンではなくて、フレックス・ニブという柔らかい金のペン先が付いた自分専用の万年筆を使う。なぜ曲のタイトルをあえて丁寧に記すのかといえば、それは僕自身のスタンダードの楽曲に対するリスペクトに他ならない。書いた曲順のメモを演奏前にメンバーに渡したり、ピアノの上に置いてそれを皆が見る事で、単に曲目を言葉で指示するよりそれらの曲に対するイメージや愛着を伝えて共有できると思うのだ。
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ところで、僕にとって母国語は日本語だから、英語はあくまでも外国語である。若い頃には一時英国にもいたし、長く勤めていた広告会社も外資系だったから、まあ英語に触れる機会は比較的多かったかもしれないが、それでも僕にとってのアルファベットは所詮「記号」であり、無機質な「幾何学模様」に過ぎなかった。そこから感情や精神を受け取ることは無いし、ましてや英語で自分を「表現」しようなどとは考えてもいなかった。
ところが、ジャズという音楽のフィールドで長くスタンダードを演奏したり歌ったりしていると、いつしかそれら楽曲の本当の魅力を知るチャンスがやってくる。例えばそれは、古き良きアメリカの気の利いた"比喩"や"韻"だったり、曲と歌詞のマッチングの妙のようなものなのだが、あるとき、印象的なメロディにまさに奇跡のように寄り添う美しい詩的表現に出遭い、それまで沈黙していた僕の中の英語の文字がまるで生き返ったかのように、踊り輝き出し始めたのだった。
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それは、全ての言葉に「言霊」が宿るとさえ云われる日本語の多種多様な表現とは対照的な、アルファベットという「たった26個の文字たち」がメロディやハーモニーに乗って奏でるイマジネーションの世界。その音楽の世界はいつしか僕の中に「革命的な意識変化」を起こしていた。しかし同時に、もしかしたらこれは僕だけの言わば発見の喜びであり、母国語が英語の人達にはむしろ理解出来ない種類の感動かもしれない、という思いもあった。…しかしスタンダード・ジャズという呼称の如く、それらの楽曲が普遍的で100年の歳月を経ても今だに歌い継がれているという事実こそが、その本質的な価値を裏付けているようにも思う。いずれにせよそんな新しい発見と喜びを与えてくれた楽曲をステージで好きなようにアレンジして演らせてもらうわけだから、そのタイトルくらいは丁寧に書いて敬意を示さねば、バチも当たろうというものだ。

ところで、よく僕の描いたメモを見て「カリグラフィーですね。どこで習ったんですか?」と聞かれることがあるけれど、僕のは正式(?)に誰かに習ったわけではなく、これまでの人生で見てきたいろんな書体を元に自分の好きな文字を思いつくままに筆記している。僕はこれをフレックス・ニブのペンで書くことから、それにかけて"Flex(=テキトー)ライティング"と呼んでいる。
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 書きながらその場で文字に飾りをつけてみたり、例えばちょっとしたスペースができれば、そこにバラの花を入れてみたり...と何でも自由に描く。…とはいえ、音楽の演奏も同じことだが、文字を書くにあたって書体に関する基礎知識が全く無いわけでもない。僕の文字はどちらかといえば17世紀のヨーロッパで産まれた書体「カパープレート」に近いと思うが、以前 広告代理店の仕事で日常的に親しんだ様々なフォントや、昔から好きだったジャズのLPのジャケットデザインなどが頭にあって、それに、普段 街を歩いたり古い洋書や広告に気になる文字を見つけると、それを記憶にとどめてオフィスに帰り、実際に書いてみてもし文字的に互換性があればアイデアに加えてゆく。だから、僕の書く字体は常に"変化"しているというわけだ。
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書く速度も、インク瓶にペンを漬けつつ時間をかけて描くのではなく、通常の速さより少し遅いくらいの速さで気軽に書いてゆく。音楽でいえば、コンチェルトの様に荘厳さや完璧さを追求するというより、むしろジャズの持つアドリブ=即興に通じるような世界。紙の大きさ以外に何の制約もない落書き感覚と、磨かれたイリジウムのトレース感、さらに潤沢なインクフローが、まるでピアノ・トリオの中で即興でメロディを奏でるような気持ち良いリズム感を生み出してくれるのだ。
きっちりと全てが揃った芸術的なカリグラフィも勿論素敵だけれど…ちょっと不揃いなところや、どこか手書っぽい「味」のある"Flex(=テキトー)ライティングが僕は好きだ。
(次回につづく⇨#2 Flex Nibsは絶滅危惧種?? http://hirokawashima.sblo.jp/article/60690300.html )

 下の動画は、以前僕自身のFlex Writingと遊びに来た友人の犬達をiPadで撮ったホーム・ムーヴィー"The Spring Family"です。犬のお好きな方はどうぞご覧下さい(笑)
http://www.youtube.com/watch?v=uEwFjF0j5Kw 
posted by Hiro at 18:20| Flexiosourusの涙